2013年8月11日日曜日

青本和彦「直交多項式入門」(数学書房)

青本和彦氏より「直交多項式入門」(数学書房)が送られてきたので、本を読むだけでなく、直交多項式の本をいろいろ調べてみた。

直交多項式の教科書など掃いて捨てるほどあるだろうと思っていたが、実は本書は「日本語で書かれた初めての直交多項式をタイトルに付けた出版物」である。私も予想外であったが、国会図書館で蔵書検索した結果である。

ちなみに直交函数に関連する本としては、過去には

末岡 清市「級数および直交関数系」 (応用数学講座1957年)コロナ社
土倉 保「近似理論と直交整式」(数学選書1967年) 槇書店)
伏見 康治、 赤井 逸「直交関数系」(1981年、増補版1987年)共立出版
G.G. ウォルター「ウェーヴレットと直交関数系」(2001)東京電機大学出版局

が出版されており、伏見・赤井は今は復刊されており、ウォルターの本もまだ出版されているが、末岡、土倉は品切れである。末岡と伏見・赤井は、大半の学生・研究者が考えているような直交多項式のテキストで、直交性の解説、エルミートやラゲールなどの個別の直交多項式の解説がなされている。

ちなみに、世界で最初の直交多項式の本はSzegő "Orthogonal Polynomials" (1939, AMS) である。実は、直交多項式じたいをタイトルに掲げた本は世界的に見ても多くはなく、1980年代から次第に増えてくる。その意味では、古典的にはSzegőで尽きてるような感じがしないでもない。

青本さんの本は、Szegőの本を踏まえつつも、新しいテーマにも触れたテキストである。理工系の学生であれば、量子力学などの固有値問題や境界値問題を解く際に必須のものとして「応用数学」「物理数学」の一章として直交多項式を学ばれた方も多いであろう。近年は、可積分系やランダム行列などにも応用の場を移しつつ活発に研究されている。さらにAskey-Wilson多項式など離散系とかかわる直交多項式も重要になってきている。

大学4年生くらいにじっくり読んでほしい新しい名著の誕生である。残念ながら、工学部の2,3年生が直交多項式を勉強しようとしてこの本を手にしてもがっかりするであろう。本書は「直交多項式(を研究するための)入門」だからである。