2014年2月20日木曜日

最速降下法

最速降下法(鞍点法)について


最速降下法(鞍点法)について、文献が交錯してるようなので自分で整理し直した。

ピエール=シモン・ラプラス

∫g(x) exp(λf(x))dxを近似する「Laplaceの方法」はもちろんピエール=シモン・ラプラスによる:

 「Theorie analytique des probabilites」(1812)

Laplaceの「確率論―確率の解析的理論―」は共立出版・現代数学の系譜から邦訳もある。Laplace変換の原始的な形で表れているが、Laplaceはすでに先を見ていた。

複素積分へ~Cauchy

さて、問題はこのLaplaceの方法を複素積分で考え、「最速降下線」を考察する場合である。Laplaceの時代は、まだ複素解析がなかった(というよりも、実解析という意識もなかったと思われる)。複素積分を意識して始めたのは言うまでもなくAugustin Louis Cauchyである。そして、Cauchy本人が,最初に最速降下法を扱っている:

Mémoire sur divers points d'analyse
Mém Acad France, 8 (1829), 97-100,101-129

最速降下法の確立~Nékrassov

Cauchyの手法をさらに進めたのが、ロシアのP. Nékrassovである。Nékrassovは逆関数を求めるLagrangeの反転公式を最速降下法で考察した。次のp.490
Serie de Lagrange et expressions approchées des fonctions des grands nombres. Chapitre III
Mat. Sb., 12 (1885),483--578

このロシア語論文は西側には知られなかったが、ロシアでは有名だったようだ。

話を戻して~RiemannからDebyeへ

ベッセル函数の漸近解析などで必要になることもあって、最速降下法を最初に考察したのは、ノーベル化学賞受賞者であるP. Debyeである、と書いてあるものもある

Nährungsformeln für die Zylinderfunktionen für große Werte des Arguments und unbeschränkt veränderliche Werte des Index, Math. Ann. 67(1909), 535--558

Debyeが元にしたのは、B.Riemannの未発表論文
Sullo svolgimento del quoziente di due serie ipergeometriche in frazione continua infinita,
Bernhard Riemann's Gesammelte mathematische Werke (1876), 400--406
である。Riemannは、このイタリア語論文では超幾何積分を最速降下法で扱っていた。

Watsonの補題

Bessel Functionのテキストで有名なG. N. WatsonもDebyeとほぼ同時期にWeber函数の漸近展開を考察する際に最速降下法を使ってる。

The Harmonic Functions Associated with the Parabolic Cylinder
Proc. London Math. Soc.  s2-8 (1910)  393-421

さらに、∫g(x) exp(λf(x))dx型の積分の漸近展開を与えるWatsonの補題

The Harmonic Functions Associated with the Parabolic Cylinder
Proc. London Math. Soc. s2-17 (1918)  116-148

で与えられている。論文題名が同じなので紛らわしい。

参考文献

西欧で知られていなかった、Nékrassovの論文を紹介したのが以下の論文である。最速降下法の歴史について参考になると思う:

Svetlana S. Petrova, Alexander D. Solov'ev.
The origin of the method of steepest descent.
Historia Mathematica 24(1997), 361--375.