2014年3月15日土曜日

円周率の話

円周率の話

3月14日は過ぎてしまったが、円周率の話。よく知られるように、πは超越数であるが、この超越性の証明は難しい。無理数性の証明は古くから知られ、最初に行ったのはJohann Heinrich Lambert で1762年である。

 Mémoire sur quelques propriétés remarquables des quantités transcendentes circulaires et    logarithmiques. Histoire de l'Académie (Berlin, published 1768) XVII: 265–322.


であるが、読みにくい。archive.orgのほうが読みやすい。さらに超越性の証明を行ったのがCarl Louis Ferdinand von Lindemann (1882)であり、論文のタイトルもシンプルである:

  Ueber die Zahl π, Math. Ann. 20 (1882) , 213--225

その後もいろんな証明があるが、きわめて簡単なものがIvan Niven によるたった1ページの証明である

 A simple proof that π is irrational. Bull. AMS 53 (1947) 509

1ページしかないので、解説を加えて行間を埋めたサイトがいくつかあるが、それは野暮というものである。おそらくNivenはあえて1ページに収まる形に書いて「simple proof」としたに違いない。
ハーバード大学数学教室でほぼ毎年行われる pi contest のサイトにも解説だけでなく、Nivenのたった1ページの論文が画像として貼られている。

Nivenの精神を尊重して、140文字・1ツイートにまとめたのが次:


Nivenの積分を用いて、少し別の形で証明させる問題が、阪大の2003年後期の入試問題4番で出題された。ネットでも紹介されているようである。

πの歴史について、原論文を紹介しているのが
   Lennart Berggren, Jonathan Borwein, Peter Borwein
   Pi: A Source Book, 1997, Springer

である。Lambert, Lindemann, Nivenの論文も収録されている。

3月14日生まれの数学者

数学者ではないが、1879年生まれのAlbert Einsteinが3月14日生まれの一番有名な科学者であることは疑う余地がない(アインシュタインより有名な人物を探すのも難しい)。
数学者としては、πに一番近い研究をしたのが、Waclaw Sierpinski (1882生)。シェルピンスキーの三角形などフラクタル曲線の研究が有名であるが、

  原点中心の半径rの円に含まれる格子点(x,y座標がともに整数)の数をR(r)とすると
  定数Cが存在して |R(r)-π r^2|<C r^k となる定数kがある。
  kの最小値dはd≦2/3 である。

という結果を出している。この問題は、ガウスが先に考えており、ガウスは d≦1 としている。現在どこまで精密化されているか知らないが、 d≦7/11 までは得られている。
シェルピンスキーはまた、正規数についても研究がある。N進正規数というのは、実数aをN進展開したとき、その桁に現れる数字0~N-1が等しい確率で現れるというものである(正確には、N新展開して、それをr桁ずつ切ったときに、そこにあらわれるr桁の数字が等しい確率で現れることまで要求する)。そして、任意のN(≧2)に対してN進正規数であれば、正規数という。
シェルピンスキーの論文は

Démonstration élémentaire du théorème de M. Borel sur les nombres absolument normaux et détermination effective d'une tel nombre.
Bulletin de la Société Mathématique de France, 45 (1917), p. 125-132

である。もともとはE.Borelが示した結果を簡単にしたものである。

円周率πが正規数かどうかは不明である。数値実験によって、π、eや代数的な無理数は正規数であろうと予想されているが、証明はない。「πの小数展開を先の方まで見ていけば、どんな有限数列も出現する」はずである。